【業種別】建設業のM&A売却相場と評価されるポイント

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月25日

建設業のM&Aは、他の業種と評価の構造が違います。決算書に表れない資産 ― 許可、経営事項審査の評点、有資格者 ― が価格を大きく動かすからです。

利益が同程度の2社でも、特定建設業許可と一級技術者を抱えている会社と、一般建設業許可だけの会社では、買い手にとっての価値がまったく違います。

相場のレンジ

一般的な算定の出発点は他業種と同じです。

譲渡価格 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 3〜5年分

EBITDA倍率で見るとおおむね3〜5倍のレンジに収まることが多い業種です。ただし後述する条件が揃っている会社は、このレンジの上限を超えることがあります。

建設業特有の注意点として、時価純資産の評価が動きやすいことがあります。

  • 完成工事未収入金の回収可能性
  • 未成工事支出金の実在性と採算
  • 重機・車両の実際の市場価値(簿価との乖離が大きい)
  • 遊休不動産・資材置き場の含み損益
  • 未払残業代(現場管理者の労働時間は調査対象になりやすい)

価格を押し上げる5つの条件

1. 建設業許可の種類と業種

特定建設業許可は、一般建設業許可より評価されます。元請けとして大規模工事を受注できるためで、取得には財産的基礎や専任技術者の要件があり、自前で取るには時間がかかります。

許可業種の数と組み合わせも見られます。土木一式・建築一式を持ち、専門工事の許可も複数持つ会社は、買い手にとって「これ1社で完結できる」対象になります。

2. 経営事項審査(経審)の総合評定値

公共工事を受注するには経審が必須で、総合評定値(P点)が入札参加のランクを決めます。P点が高い会社は、買い手が自力で到達するのに数年かかる位置にいるということです。

P点は完成工事高、自己資本、技術職員数、社会性(社会保険加入、退職金制度、法令遵守)などで構成されます。このうち技術職員数と経営状況分析(Y点)は、買収後すぐには上げられません。だからこそ評価されます。

公共工事の受注実績、とくに官公庁との継続的な取引実績も同様です。

3. 技術者の在籍

建設業で最も慢性的に不足しているのが有資格者です。

  • 一級・二級施工管理技士
  • 監理技術者資格者証の保有者
  • 各営業所の専任技術者

専任技術者は建設業許可の要件そのものなので、退職されると許可が維持できなくなります。買い手はここを最も注意深く見ます。逆に言えば、技術者が定着している会社は、それ自体が価格になります。

年齢構成も見られます。60代の技術者だけで維持している会社と、30〜40代がいる会社では評価が変わります。

4. 元請け比率と取引先の分散

下請け中心の会社より、元請けとして直接受注している会社が高く評価されます。利益率が高く、価格決定権を持っているためです。

一方で、売上の大半を1社の元請けに依存している場合は減点になります。その元請けとの関係が社長個人に紐づいていれば、なおさらです。

5. 施工実績と技術の独自性

特殊工法、狭あい地施工、耐震・免震、インフラ更新など、参入障壁のある分野の実績は評価されます。同業の買い手にとっては、実績がないと入札に参加できない分野があるためです。

引き下げる要因

  • 社長が現場の要になっている(積算も交渉も社長がやっている)
  • 一人親方・偽装請負の疑いがある外注構造
  • 未払残業代のリスク(労務デューデリジェンスで必ず見られる)
  • 建設業法・労働安全衛生法の違反歴、指名停止歴
  • 完成工事未収入金の滞留、赤字工事の存在
  • 重機のリース・所有バランスが悪く、更新投資が直近で必要

許可の引き継ぎ ― ここが手法選択を決める

建設業許可は、原則として譲渡できません(建設業法76条)。M&Aの手法選択に直結する論点です。

株式譲渡なら、会社そのものが存続するため許可はそのまま継続します。建設業のM&Aで株式譲渡が選ばれやすいのは、この理由が大きい。

事業譲渡の場合、従来は「廃業届+新規許可申請」という手順になり、その間は営業できない空白期間が生じていました。しかし2020年10月1日施行の改正建設業法により、事前に認可を受けることで許可を承継できる制度(建設業法17条の2・17条の3)が新設され、空白期間なしで引き継げるようになりました。合併、会社分割、事業譲渡、個人事業主の相続・法人成りが対象です。

ただし事前の認可が前提であり、手続きには相応の期間がかかります。スケジュールに織り込んでおかないと、クロージングが後ろにずれます。

経審の評点は、承継の方法によって扱いが変わる部分があります。公共工事の受注が事業の柱である会社は、手法を決める前に必ず確認してください。

売る前に整えておくこと

効果が出るまで時間がかかる順に並べます。

  1. 技術者の定着。 資格取得の支援、処遇の改善。数年単位で効く
  2. 社長依存の解消。 積算と価格決定の基準を文書化し、他の社員でも回せるようにする
  3. 労務の整理。 勤怠管理と残業代の適正化。デューデリジェンスで最も指摘されやすい
  4. 未収金の整理。 滞留債権を処理し、時価純資産を実態に近づける
  5. 許可・経審の維持。 更新漏れは論外。技術者の退職による要件割れに注意

自社の位置を知る

建設業は、決算書だけを見る仲介会社では価格が出ない業種です。許可の種類、経審のP点、技術者の構成、元請け比率 ― これらを聞かずに価格を提示してくる担当者は、その業種を理解していない可能性があります。

無料相談では、決算書3期分に加えて許可の内容と経審の結果があれば、より精度の高い見立てをお伝えできます。売却を決めていない段階でのご相談で構いません。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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