【業種別】製造業のM&A売却相場と評価されるポイント

製造業のM&Aは、決算書の数字と実態の差が最も出やすい業種です。設備の簿価と時価が大きく離れ、在庫の評価に幅があり、技術が人に紐づいている。
この記事では、製造業の売却で実際に何が見られるのかを整理します。
相場のレンジ
算定の出発点は他業種と同じです。
譲渡価格 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 3〜5年分
EBITDA倍率で見るとおおむね3〜6倍のレンジに入ることが多い業種です。設備投資が重いためEBITDA(営業利益+減価償却費)と営業利益の差が大きく、EBITDA倍率で見たほうが実態に近くなります(EBITDA倍率で見る自社の相場)。
時価純資産で調整が入るところ
製造業は、ここで価格が数千万円単位で動きます。
機械設備。 簿価と時価の乖離が最も大きい項目です。減価償却が進んで簿価1円になっている機械が、実際にはまだ十分に稼働することもあれば、簿価が残っているのに市場価値がほぼゼロのこともあります。汎用機は中古市場で値が付き、特注機はほぼ値が付きません。
在庫。 原材料、仕掛品、製品。とくに仕掛品の評価と、滞留在庫の有無が見られます。「いつか使う」材料が数年分積まれていると、その分は評価されません。
土地・建物。 工場用地の含み損益。市街化調整区域や、用途が限られる立地は流動性が低く評価されます。
土壌汚染のリスク。 古い工場では調査を求められることがあります。判明すると対策費が価格から引かれるため、心当たりがあるなら先に把握しておくほうが有利です。
退職給付引当の不足と未払残業代。 勤続の長い従業員が多い業種なので、金額が大きくなりがちです。
価格を押し上げる条件
技術者の年齢構成
製造業で最も見られる非財務項目です。熟練工の技能に依存している会社で、その人たちが60代後半なら、買い手は「あと数年で技能が失われる」と判断します。
評価されるのは次のような状態です。
- 30〜50代の技術者が育っている
- 技能が手順書、加工条件、検査基準として文書化されている
- 若手の採用と定着ができている
技能の文書化は、売却前に着手できる数少ない打ち手です。
取引先の構成
売上に占める上位1社の比率は必ず見られます。系列や下請け構造の中にいる会社では、上位1社で50%を超えることが珍しくありません。
- 30%未満:問題視されにくい
- 50%超:引き下げ要因
- 70%超:買い手が付きにくくなる
ただし製造業では、その1社との取引が数十年続いていて、技術的に代替が効かないなら、依存というより参入障壁として評価されることもあります。取引の質を説明できるかどうかで、扱いが変わります。
図面と知的財産の帰属
見落とされやすい論点です。
- 図面の権利は自社にあるか、発注元にあるか
- 治具、金型の所有権は誰にあるか
- 設計データを外注先に預けたままになっていないか
発注元に権利がある図面ばかりなら、その事業の自立性は低いと見られます。
認証と許認可
- ISO9001、IATF16949などの品質マネジメント認証
- 業種によっては、防衛、航空、医療機器などの特殊な認定
- 化学物質、産業廃棄物、消防関連の許認可
買い手が自前で取得するのに年単位かかるものは、そのまま価格になります。
設備の更新時期
直近で大型の設備投資が必要な状態だと、その投資額が価格から差し引かれる方向に働きます。逆に主要設備を更新したばかりの会社は、その分が評価されます。
引き下げる要因
- 社長が技術の要になっている(設計も見積も社長がやっている)
- 原価計算ができておらず、製品別の採算が不明
- 特定の熟練工1人に依存する工程がある
- 老朽設備の更新が先送りされている
- 労災の履歴、安全管理体制の不備
- 外国人技能実習生に依存し、その体制に不安がある
売る前にできること
効果が出るまでの時間順に並べます。
- 技能の文書化(1〜3年)。加工条件、段取り、検査基準を手順書にする。人が抜けても回る形にする
- 原価管理の整備(1〜2年)。製品別・取引先別の採算を出せるようにする。これがないと買い手は保守的に見積もります
- 取引先の分散(2〜3年)。比率が下がる方向に動いている実績があれば、それ自体が評価される
- 在庫の整理(半年〜1年)。滞留在庫を処分し、時価純資産を実態に近づける
- 労務の適正化(半年〜1年)。勤怠管理と残業代。デューデリジェンスで最も指摘されやすい領域です
自社の位置を知る
製造業は、工場を見ないと価格が出ない業種です。設備の状態、レイアウト、5S、作業者の年齢構成。決算書だけを見て価格を提示してくる担当者は、その価値を買い手にも説明できません。
無料相談では、決算書3期分に加えて設備一覧と主要取引先の構成が分かれば、より精度の高い見立てをお伝えできます。売却を決めていない段階でのご相談で構いません。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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